被害者請求を弁護士に依頼するメリットとは?
加害者の任意保険会社との示談交渉は、弁護士に依頼すると自分で示談したときよりも損害賠償額が高くなることはご存じの方も多いと思います。
実は、自賠責保険から支払われる損害賠償額も、請求の仕方によって金額に開きが出る可能性があります。
特に後遺障害の慰謝料を請求する際には、自賠責保険への請求の仕方によって、認定される後遺障害等級が大きく変わることも少なくありません。
自賠責保険への請求方法には、加害者の任意保険会社に任せる「事前認定」と被害者本人が行う「被害者請求」とがあります。
被害者請求の方が納得のいく結論を得ることができますが、実際に被害者本人が手続きを行うのは簡単ではありません。
今回は、自賠責保険への損害賠償請求を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
このコラムの目次
1.後遺障害等級認定を受ける2つの方法
交通事故によって後遺障害が残ってしまったときには、後遺障害による損害賠償として、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を請求することができます。
後遺障害による損害賠償を請求するためには、その前提として後遺障害等級の認定を受けなければなりません。
「被害者請求」、「事前認定」というのは、後遺障害等級の認定を受ける方法の種類です。
(1) 「事前認定」と「被害者請求」
後遺障害等級の認定には、診断書やレントゲン写真などの資料が必要です。
「事前認定」はこれらの資料の収集を「加害者側の任意保険会社が行う」やり方をいいます。
これに対し、「被害者請求」は、資料の収集を被害者本人が行う点で違いがあります。
一般的には、事前認定によることが多いのですが、被害者請求をした方が良いケースも少なくありません。
(2) 「事前認定」のメリット・デメリット
事前認定は、自動車損害賠償保障法(自賠責法)15条に基づく、加害者が自賠責保険会社に損害賠償を請求する方法です。そのため「15条請求」とか「加害者請求」と呼ばれることもあります。
実際には、任意保険会社が加害者本人に代わって請求手続きを行います。
①被害者にとっての「事前認定のメリット」
被害者にとっての事前認定のメリットは、自賠責保険への請求手続きを「自分でしなくて済む」ことです。
事前認定であれば、診断に作成してもらった「後遺障害診断書」を加害者の任意保険会社に送付すれば、あとは認定結果を待つだけです。
事前認定であれば、必要な書類の収集作業を加害者の保険会社が代わりに行ってくれます。さらに、書類収集に必要な費用も加害者の保険会社が支払ってくれます。
また、損害賠償金の請求が1回で済むのもメリットのひとつです。
交通事故の損害賠償は、まずは自賠責保険から支払われ、不足分があるときには、任意保険から支払われるのが原則です。したがって、本来的には、
「自賠責保険会社への請求」と「任意保険会社への請求」の2回の損害賠償請求をする必要があります。
事前認定であれば、自賠責保険からの支払い分を任意保険会社が立て替えてくれるため、請求も1回で済みます。
その代わり、事前認定のみのときには、任意保険会社の示談交渉がまとまるまで損害賠償を受け取ることができません。
②事前認定のデメリット
事前認定の最も大きなデメリットは、後遺障害等級認定のための資料収集を、「利害関係が対立する加害者の保険会社」に任せてしまうことです。
後遺障害等級認定は、「書面審査のみ」で結論が下されます。そのため、「どのような書類」を調査期間(損害保険料率算出機構)に送付するかということは、適正な障害等級認定にとって最も重要な要素になります。
しかし、事前認定では、加害者の任意保険会社がどのような資料を送付したのかということを把握することができないため、手続きに「不透明さ」が残ってしまいます。
(3) 事前認定は「非該当」になるリスクも高くなる
相手方の保険会社が提出した資料・書類が不十分であれば、「非該当」、「実際の症状よりも下位の等級での認定」となってしまう可能性も十分にあります。
後遺障害の症状について、被害者と保険会社との間に認識の違いがあるときには、保険会社の顧問医の意見書なども送付されてしまうこともあり得るでしょう。
①事前認定は損害賠償額を低く抑える目的で使われることも多い
加害者請求のことを「事前認定」と呼ぶのは、「症状固定(治療費の確定)」に先立って後遺障害等級の認定が行われることに由来しています。
任意保険会社が支払う金額は、自賠責保険から支払われる金額に応じて変動します。
そのため、任意保険会社としては、自社が負担すべき金額をあらかじめ把握する必要があるため、症状固定前に後遺障害認定を事前に申請することが多いのです。
症状固定前に後遺障害等級が認定されれば、損害賠償額も低く抑えられる場合が多くなります。
②事前認定は不服申し立ても難しくなることが多い
認定結果に不服があるときには、異議申立ての手続きをとることも可能です。
しかし、事前認定では、保険傾斜がどのような資料を提出したかがわからないため、「新たにどのような資料を提出すべきか」が分かりづらいという問題も発生します。
2.「被害者請求」で後遺障害等級の認定を受ける方法
被害者請求は、呼び名が示すとおり、自賠責保険会社に対する損倍外傷の支払いを「被害者本人」が直接請求する方法です。
被害者請求については自賠責法16条に定めがあります。
なお、被害者請求は、事前認定による後遺障害等級認定後でも行うことができます。
後遺障害等級認定後の任意保険会社との示談交渉が長期化した際には、被害者請求によって自賠責部分の請求を先行して確定させることも可能です。
(1) 被害者請求のメリット
被害者請求のメリットは、後遺障害等級認定に必要な資料の収入を自ら行うことです。自分で資料収集を行うため、有利な認定結果を導くための最大限の努力をすることができます。
被害者自らが請求するため、「公正な結論が得られやすい」(適正な損害賠償額を確保できる)のが、被害者請求の最大のメリットといえます。
被害者請求では、自賠責保険で賄う保障と任意保険による保障を切り離して手続きをすることになります。
そのため、任意保険会社との示談交渉がまとまるのを待たずに、自賠責保険による補償分を先行して受け取ることができます。
(2) 被害者請求のデメリット
被害者請求をするときには、資料・書類の収集を被害者が自ら行わなければなりません。
自賠責保険会社への損害賠償請求には、下に示すような多くの書類が必要となります。
- 保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書
- 交通事故証明書(人身事故)
- 事故発生状況報告書
- 医師の診断書または死体検案書(死亡診断書)
- 診療報酬明細書
- 施術証明書
- 通院交通費明細書
- 付添看護自認書または看護料領収書
- 休業損害の証明(事業主が発行する休業損害証明書、もしくは、税務署・市区町村が発行する納税証明書、課税証明書など)
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 後遺障害診断書
- レントゲン写真やMRI画像など
被害者請求をするときには、これらの資料収集に必要な費用も被害者自身が負担しなければなりません。
したがって、被害者請求の最大のデメリットは、損害賠償請求の手続きに手間と費用がかかることであるといえます。
また、法律の知識も医学の知識も十分ではない被害者が自力で手続きをしたことで、損害賠償額が下がってしまう(後遺障害等級が不利に認定される)こともあるかもしれません。
3.弁護士に依頼すれば大きなメリットがある
被害者本人が被害者請求を行うことは、かなり大きな負担といえます。
しかし、弁護士に被害者請求を依頼すれば、被害者請求のデメリットのほとんどが解消されます。
(1) 被害者請求を行った方がよいケース
後遺障害等級認定は、自賠責損害調査事務所(損害保険料率算出機構)が、書面審査で定型的に判断されるため、「提出される書類・資料が同じ」であれば、「認定される後遺障害等級も同じ」になります。
したがって、被害者と保険会社との間に後遺症について認識に争いがない場合や、症状を明確に判断できるレントゲン・MRIなどの画像資料があるときには、わざわざ被害者認定をする必要がない場合もあります。
しかし、次に挙げるようなケースの場合には、事前認定よりも弁護士に依頼して被害者請求した方が適正な補償・有利な結論を得られる可能性が高くなるといえます。
- 任意保険会社との示談交渉が長引いた場合
- 高次脳機能障害や四肢切断のような重度の後遺障害が残ってしまった場合
- むち打ち症やRSD(反射性交感神経萎縮症)のような他覚症状のない後遺障害が残ったとき
- 加害者の過失が大きい事故のとき
示談交渉が長引いたときには、当面の治療費や訴訟費用の工面のために自賠責の請求を先行させることが有用な場合があります。
また、重度の後遺障害が残った場合には、後遺障害が認定されることは間違いなくても、被害者請求によって慎重に対応した方が良い場合が多いでしょう。
重度な後遺障害が残ったときには、認定される等級によって得られる損害賠償額が大きく変わるからです。
たとえば、後遺障害等級1級と3級とでは、慰謝料・逸失利益を合わせた賠償額は数千万円異なることもあります。
これとは逆に、他覚症状(目で見て分からない)のないむち打ち症が残った場合には、事前認定では「非該当」となる可能性も低くありません。
「非該当」とは「後遺障害がない」という認定結果のことです。非該当となれば、後遺障害による慰謝料や逸失利益を請求することができません。
最後に、被害者の過失が大きい事故の場合にも、被害者請求によって自賠責の請求を先行させた方が被害者にとって有利な場合が多いでしょう。
たとえば、被害者がセンターオーバーしたことを原因とする事故では、被害者の過失割合の方が大きくなります。
この場合に、裁判が確定してから自賠責保険を請求すれば、裁判の結果通りの支払いとなるので、被害者請求よりも得られる補償額は少なくなります。
(2) 交通事故に強い弁護士は診断書作成の過程にも関与できる
被害者請求を弁護士に依頼するときには、「交通事故に強い弁護士」に依頼することが重要です。
交通事故に強い弁護士であれば、後遺障害等級認定に最も大きな影響を与える「診断書の作成」に関与することができるからです。
後遺障害等級認定は、「書面による定型審査」です。したがって、「診断書の書きぶり」がとても重要です。
しかし、すべての診察医が後遺障害診断書の作成に熟知しているわけではありません。
傷害保険の請求の場面では、「診断書の記載内容が不十分」であるために保険金が下りないということが稀にありますが、後遺障害等級認定の場面でも同様のことがいえます。
また、「必要以上に重たい診断を下すことは被害者に気の毒」と軽めの診断書を作成する医師もいないわけではありません。
「交通事故に強い弁護士」であれば、適正な後遺障害等級認定を得るために、医師とも必要なコンタクトを取ることができます。
(3) 任意保険会社との交渉も弁護士に任せられる
交通事故の損害賠償請求を弁護士に依頼すれば、任意保険会社との交渉もそのまま任せることができます。
弁護士に依頼すれば、任意保険会社との交渉は、裁判基準によって算出された損害賠償額がベースとなるため、損害賠償額の増額も期待できます。
また、お勤めや治療をしながら、任意保険会社と交渉することは、肉体的にも精神的にも負担が小さくない場合も多いでしょう。
さらに、利害が対立する保険会社との交渉にストレスを感じることも少なくありません。
弁護士に依頼すれば、これらの問題をすべて解消することができます。
4.まとめ
専門家ではない被害者本人が、その道のプロである任意保険会社の担当者と対等に交渉することは決して簡単ではありません。
法律が定める基準に従って支払われる自賠責保険の請求も請求の仕方によって結論が異なる場合もあります。
交通事故で被害に遭ったときには適正で十分な補償を得ることが何よりも大切です。
交通事故に強い弁護士に損害賠償請求を依頼すれば、被害者本人が請求する際に立ちはだかるすべても問題を解消することができます。
交通事故でお困りのことがあるときには、お気軽に当事務所までご相談ください。
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