子どもの高次脳機能障害への対応方法
交通事故にあったお子様が「事故以前のことを忘れている」「気が散りやすくなった「怒りやすくなった」など、事故前と比べてどこかおかしくなっていませんか?
このような症状がみられるときは、「高次脳機能障害」となっている疑いがあります。
高次脳機能障害はお子様の成長や将来に大きな悪影響を及ぼすおそれがある一方、専門知識を持つ医師でも見過ごしていしまいやすい障害です。
早くから医師による診断や検査をしていなければ、十分な損害賠償金を手に入れられないおそれがあります。
ここでは、事故直後にお子様の異変に気付いたご家族が、治療や損害賠償請求のために今何をすべきかを説明します。
このコラムの目次
1.症状を医師に伝える
まず、お子様の様子がおかしいと気づいたら、事故前と比べてどのようなことがどうおかしいのか、すぐに医師に伝えて、高次脳機能障害ではないか慎重に診断をしてもらいましょう。
(1) 見過ごされやすい高次脳機能障害
事故前と比べると、お子様が日常生活や学校生活をうまく送れなくなったこと。これが高次脳機能障害の「症状」です。
そのため、症状に気付くには、
- 事故前のお子様の記憶力や判断力、友人関係や性格などをよく知っていること
- 事故後にお子様と生活する、または普段の生活のように接すること
この二つが必要です。
ところが、医師は事故前のお子様のことを知りませんし、短い診察の時間しかお子様に触れることがありません。
まして、子どもはまだ高次脳機能が発達の途中です。
医師からすれば、「まだ子どもだから気が散るし、わがままも言うだろう」と思ってしまうこともあるでしょう。
ですから、医師はお子様が高次脳機能障害となっていることを見過ごしやすいのです。
損害賠償を請求するためには、医師が作成する証拠が必要ですが、このままだとその医師が充実した内容を持つ証拠を作成できないおそれがあります。
(2) 損害賠償請求のため必要な証拠
交通事故の後遺症について損害賠償請求をするには「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」に当たると認定されなければいけません。
認定で重視される証拠としては、意識障害の記録・脳画像検査・知能検査などがあります。
しかし、事故直後からすぐに精密検査や慎重な診断が行われなければ上記の証拠はうまく揃いません。
後遺障害等級認定に必要な証拠を充実したものにするためには、症状に気付いたご家族がすぐに医師に異常を伝え、医師と共にその後の経過を追っていくことが必要なのです。
事故前にはできていたのに、事故に遭ってから急にできなくなってしまった、おかしくなってしまったことがありませんか。
そう感じたその時の状況、会話の流れ、子どもの反応を、事故以前と比較してメモに書き残してください。
事故直後だけではなく、ずっとメモを続けることが大切です。
後遺障害等級認定では、ご家族が審査機関に症状を報告する「日常生活状況報告書」という書類を作成して提出します。
[参考記事]
高次脳機能障害の等級基準|等級獲得には日常生活状況報告書が重要
後遺障害の損害賠償金は、症状の重さに応じて決められる後遺障害の「等級」で目安が決まります。日常生活報告書に記載された症状は、等級、ひいては損害賠償金の金額に大きな影響を与えるのです。
症状については、医師も意見書を作成しますから、日常生活状況報告書やメモを見せて、症状を正確に記載してもらいましょう。
【症状の記録は「エピソード」】
高次脳機能障害の症状を分かりやすく伝えるには、事故前後で認知能力や性格が変わってしまったとわかる「エピソード」、つまり、いつごろ・どんなときに・どんな相手といて・何をされたら・何をしたのかなど、問題行動を周囲の環境や人との関係を踏まえてメモしてください。
そのメモを医師に見せながら説明すると、よりよく症状を伝えることができるでしょう。
・記憶障害 :物忘れが激しくなる など
・注意障害 :気が散り集中して取り組めない など
・行動遂行障害:計画に従って行動することや順序だてて行うことが難しくなる など
・失語障害:書いたり話したりすることが上手くできなくなる など
・失行障害:道具をうまく使いこなせなくなる不器用になる など
・視覚認知障害:探しているものが目の前にあるのに気づきにくくなる など
・感情コントロール障害:感情を抑えられず怒りっぽく自己中心的になる など
・固執障害:一つの物事にこだわり、切り替えをすることが難しくなる など
・自発性の低下:自分から進んで何かをしようとしなくなる など
2.学校に連絡する
さて、ご家庭でのお子様の症状はご家族が観察できます。
しかし、子どもにとって家庭と並んで大切な生活の場であり、家庭以外の社会とのつながりでもある学校での症状は、担任の教師に確認してもらうことになります。
認定手続では、担任の教師が学校生活における症状を報告する書類も提出することになります。学校への連絡も急ぎましょう。
学校の教師にも「学校生活の状況報告」という書類で、お子様の学校での高次脳機能障害の症状を報告してもらいます。
子どもの高次脳機能は発展途上である一方、症状に影響を与える周囲の環境は進級などにより速く大きく変わります。
お子様の将来にどのような問題が生じてしまうのか推測できるような症状を担任の教師に把握してもらうには、早くから学校全体に連絡が必要です
(1) 将来の担任との協力も見据える
学年主任や校長などとも話し合い、進級や進学後の担任へも事情を引き継いでもらえるようにお願いしておきましょう。
お子様の様子について、事故のときの担任と、症状がこれ以上回復しなくなった「症状固定」のときの担任、双方に報告書の作成を依頼することになるため、長い目でみて話をして下さい。
(2) 勉強や友人関係などの問題を共有
症状の重さを考えるうえでは、学校の勉強への支障ももちろん重要です。
ですが、それだけでなく、友人関係や学校生活を送るうえでどのような問題が生じているのかもポイントとなります。
1日の学校でのお子様の様子を観察して記録してもらうこと、こまめにその内容について連絡を取り合うことを約束しておきましょう。
友人関係については、事故前から仲の良かった友達との関係だけではなく、特に仲が良くなかった子どもとの関係やクラス行事に積極的に参加しているかどうかも問題になります。
学校の間は気の合う友達と付き合うことができますが、社会に出るとそうはいきません。そのため、気の合う友人以外のクラスメイトとけんかをせずにやっていけるか、集団行動になじめるかが将来のお子様の症状を予測するうえで重要なポイントとなるのです。
体をうまく動かせなくなる、不器用になる、物事を順序だててテキパキ処理できなくなると言った症状が出ることもあります。
体育の授業中に補助具なしで逆上がりができなくなった。縄跳びの縄が足に当たってしまう。図工の時間、本棚を教科書通りの順番に組み立てられず、釘やねじが斜めに飛び出してしまう。
このように、あくまで事故前はできていたのに症状固定のときできなくなっていることが後遺障害等級認定では問題になります。
こういった細かいことを正確に把握するには、事故までの担任と症状固定のときの担任の双方が細かい問題点を観察・記録して報告書にまとめてもらうことが必要なのです。
3.まとめ
お子様の高次脳機能障害の症状は、ご家族でも注意深く観察していなければ正確には把握できないことが多いです。
まして、医師となると、事故前と比べて何がどうおかしいのか、具体的なエピソードを丁寧に説明しなければ、理解してもらえません。
上手く医師や教師に説明することができない。
説明はしたけれど、後遺障害等級認定手続に必要な検査や報告書について理解してもらえない。
これからの手続の見通しが分からない。
そんなときは、ぜひ弁護士にご相談ください。
認定の申請は弁護士に依頼して資料を集める「被害者請求」を利用することで認定の可能性が上がります。
損害賠償金も、弁護士に依頼すれば「弁護士基準」と呼ばれる最も高い相場で請求できるようになるため、金額がより高額になることがあります。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。
経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。
高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。
-
2020年7月1日交通事故 高次脳機能障害の等級基準|等級獲得には日常生活状況報告書が重要
-
2020年7月1日交通事故 高齢者の高次脳機能障害|後遺障害等級認定のポイント
-
2018年9月7日交通事故 交通事故のむち打ちで12級・14級に認定されるために必要なこと