個人再生手続における再生計画案の作成ポイント
個人再生手続によれば、財産を裁判所により処分されることなく、借金を大きく減額することが可能です。
減額された借金を返済する計画は、債務者自身の手で作成することになります。これが再生計画案です。
再生計画案が裁判所に認可されなければ、個人再生手続による借金負担の軽減が実現されません。再生計画案の作成は、個人再生手続の中でも最も重要な作業なのです。
ここでは、個人再生手続における再生計画案の作成上の注意点を説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続の基本
個人再生手続は、支払いきれない恐れのある借金のうち、一部についてのみ返済する再生計画案を裁判所に認可してもらうことで、返済すべき借金を減らし、さらに再生計画上の返済を終えることで、残る借金が免除される債務整理手続です。
(1)手続の種類
個人再生手続には、2つの種類の手続があります。
①小規模個人再生
小規模個人再生という種類の個人再生手続が、一般的には用いられています。利用条件が緩く、また、再生計画上の返済総額も少なくなりがちであるためです。
もっとも、詳細は後述しますが、債権者に反対され失敗してしまうリスクがあります。
②給与所得者等再生
給与所得者等再生は、債権者が手続に反対できないという、小規模個人再生にはないメリットがあります。
もっとも、債権者の反対が予想される場合を除いて、ほとんど利用されることはありません。
収入が安定していなければ利用できませんし、返済額も大きくなるリスクがあるからです。
(2)再生計画上の返済総額を定める基準
再生計画上の返済総額は、以下の基準で算出された金額のうち、最も大きいものに定められます。
①最低弁済額
借金の額に応じ、法律が定めている基準額です。
借金総額により変動しますが、目安としては、借金の5分の1となります。
②清算価値
清算価値とは、仮に債務者が自己破産をした場合に、裁判所により処分され、債権者に配当されると見込まれる債務者の財産の価値相当額です。
③2年分の可処分所得(給与所得者等再生のみ)
債務者の収入から税金や政令で定められた生活費を引いたものの2年分です。一般的に高額となりやすい基準とされています。
給与所得者等再生の返済額が膨らむ原因です。
(3)住宅資金特別条項
個人再生手続では、返済計画の定め方で説明した通り、清算価値以上の返済が義務付けられていますから(清算価値保障の原則と言います)、裁判所が財産を処分することはありません。
しかし、借金の担保とされている財産、たとえば、ローンの残っているマイホームや自動車などは、その債権者により処分されてしまうことが原則です。
個人再生手続では、住宅資金特別条項(「住宅ローン特則」とも呼ばれます。)を再生計画に盛り込むことで、マイホームだけは処分されないようにすることが出来ます。
2.再生計画案とは
再生計画案は、債務者の借金や財産などの事情に基づいて定められた返済すべき一部の借金を、原則3年(最長5年)で返済するスケジュールを記載した書面です。裁判所ではなく、債務者が作成しなければならないことになっています。
この再生計画案が、以下の条件をクリアしたとき、裁判所は再生計画案を認可し、晴れて、再生計画に基づいて借金の返済負担が軽減され、再生計画による借金の返済がスタートします。
逆に言えば、再生計画が認可されなければ、個人再生手続による債務整理はできません。
それでは、再生計画案が認可されるために特に問題となりやすい条件を抜粋し、次の項目で説明しましょう。
3.再生計画案が認可されるための条件
(1)提出期限
当たり前かもしれませんが重要なことです。
裁判所から設定された提出期限までに再生計画案を提出できなかった場合、問答無用で手続を打ち切られます。
再生計画の作成に当たっては、後述する通り、親族からの援助なども考慮できますので、親族との交渉がはかどらず、もともとの締め切りに間に合わないということが生じることもあるでしょう。
そのような場合には、出来る限り早くに弁護士に連絡し、提出期限を延ばす申立てを裁判所へしてもらいましょう。
(2)債権者の反対
小規模個人再生では、再生計画案は債権者の書面決議にかけられます。
債権者の半分以上か、借金総額の半分を超える反対があると、再生計画案は認可されなくなり、手続はそこで打ち切りとなってしまいます。債権者の数が少ない時や、大口債権者がいるときは要注意です。
債権者の反対を回避するためには、給与所得者等再生で手続を行う必要があります。
給与所得者等再生では、可処分所得の2年分が基準として追加されるため、返済総額が高額となるリスクも考慮しなければなりません。
(3)再生計画の履行可能性
再生計画が遂行される見込みがないときは、裁判所は再生計画を認可してくれません。
再生計画が遂行される見込みのことを、再生計画の履行可能性と呼びます。
収入から生活費など必要な支出を除いた余剰金を、再生計画期間中に再生計画に基づく返済に充てても期間中に完済できる見込みがなければ、再生計画の履行可能性は原則として認められることが困難となります。
なお再生計画が認可されたとしても、現実の履行に失敗すると、残る借金が復活してしまいます。
4.再生計画案で最も重要な履行可能性に関するポイント
再生計画案を作成するうえで最も重要な考慮要素は、再生計画案の認可条件の中核となる再生計画の履行可能性です。
以下では、再生計画の履行可能性を裁判所に認めてもらうための様々なポイントを解説しましょう。
(1)生活費の切りつめ
現実的に無理な計画を立ててもいけませんが、やはりまずは節約です。
再生計画の期間は原則として3年です。裁判所が許可を出せば5年まで延長してもらえますが、特別な事情がなければ認められません。
ですから、3年間、1か月に1回返済するとして36回で再生計画上の返済総額を返済しきれるように計画を立てなければいけません。
返済原資は結局のところ、収入から生活費を引いた金額です。
生活費を切り詰めなければ、裁判所に期間延長を交渉しようにも拒絶されるだけです。生活費を考慮する際には、時間の経過とともに生じる出費にも注意しましょう。
子どもがいる場合、成長につれ新しい服や靴を購入する必要がありますし、また、学校関連の費用も念頭に置くことになります。
(2)家計をならす
基本的には、突発的に発生する収入や支出は考慮されません。
しかし、ボーナスなど定期的に高額の収入があれば、毎回の返済に割り振って考えることができます。
公務員など、月収は少ないものの、ボーナスが多めの方は、特にボーナスの活用を考えましょう。
(3)債務者の収入以外の返済原資
債務者の収入だけではどうしても履行可能性が認められない場合でも、それ以外のところからお金を捻出することで、履行可能性が認められることがあります。
(4)債務者の財産の取り崩し
債務者自身の手で手持ち財産を現金化し、再生計画上の返済に充てる方法があります。
破産による財産処分を回避するために個人再生手続にしたのに、財産を自分から処分するというのも納得いかないかもしれませんが、財産のほとんどを処分されてしまうよりはましです。
(5)家族の収入や援助
同居している家族の収入は、同一世帯で家計を一つにしているわけですから、再生計画の履行可能性の判断に当然に用いることができます。
別居や二世帯住宅の場合には、家計を同一にしているとは言えませんが、家族に援助できるだけの収入または財産があることを証明する資料や、援助を再生期間中継続する旨の念書を提出すれば、家族からの援助を考慮してもらえる場合があります。
(6)減額されない借金
これまで履行可能性を認められるためのポイントを説明してきましたが、逆にマイナスに働くポイントを最後に説明します。
個人再生手続によっても、返済負担の減らない借金などの支払負担があります。
この支払負担は、家計の余剰を減らし、再生計画に基づく返済に充てられるお金を少なくしてしまいます。
再生計画案を作成するうえでは、以下のような、減額されず再生計画に組み込まれないものに注意が必要です。
(7)住宅ローン
住宅資金特別条項を用いた場合、住宅ローンは一切減額されません。返済スケジュールを修正してもらえるだけです。
ほとんどの場合は、再生計画に基づく返済と住宅ローンの返済が二重払いとなってしまいますので、その分、再生計画の履行可能性が認められにくくなりがちです。
(8)税金など
税金など公租公課は、手続中でも支払わなければなりません。
滞納処分をされれば、再生計画上の返済に充てるはずだった財産であっても没収されてしまいます。
あらかじめ役所で分納手続をするとともに、税金の分納を踏まえた再生計画案を作成したことを裁判所に説明して下さい。
(9)滞納した養育費など
滞納した養育費やDVで離婚した際の慰謝料、悪質な交通事故の損害賠償金などは、特殊な扱いを受け、結論から言えば、返済負担は軽減されません。これらは非減免債権と呼ばれています。
非減免債権は、一部は再生計画に組み込まれるのですが、残金については、再生計画完遂後に免除されず、一括で返済しなければなりません。
そのため、再生計画に基づく返済をしている間に、少しずつ一括返済に備えて積み立てをする必要があります。
この積立金を、再生計画案を作成するうえで考慮しなければいけません。
5.個人再生は弁護士に相談を
個人再生手続では、自己破産手続の各種のデメリットを回避できる代償に、一部の借金の返済が必要です。
その返済計画である再生計画案が裁判所に認可されることが、個人再生手続の核心なのです。
出来る限り早くから、債務整理に精通した弁護士のサポートを受け、返済額の見通しを立てたうえで、裁判所にスムーズに認可してもらえるよう、再生計画案を作成する手立てを講じましょう。
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