債務整理による銀行口座の凍結
お金が必要になったとき、自分の口座を開設している銀行からお金を借りることも多いと思います。
借金の返済が困難になり債務整理を行う場合、債務整理の方法によっては、銀行の口座が凍結されてしまう可能性があります。
ここでは、
- 銀行口座が凍結されるとどうなるのか
- どのような口座が凍結されるのか
- 口座凍結のタイミングや期間
- 口座凍結の対策や注意点
についてわかりやすく説明します。
このコラムの目次
1.口座凍結の影響
口座凍結とは、預金の名義人に何らかの事情が生じた場合に、その口座に入っているお金を引き出せないようにする処理のことをいいます。銀行によっては、入金もできなくすることがあります。
ATMから現金を引き出すことができなくなるのはもちろん、銀行以外は預貯金に手を付けられなくなりますから、水道光熱費などの生活費を口座引き落としすることもできません。
入金ができないときは、給与や年金も振り込まれません。給与の振り込みができないことで、勤務先に借金や債務整理がバレるおそれもあります。
2.銀行口座が凍結される理由
債務者が借金返済をしなくなったときや債務整理を行ったとき、お金を貸している銀行としては、少しでも多く借金を回収しようとします。
その方法の一つが、「預貯金と借金の相殺」です。
「相殺」とは、お互いにお金を払うよう要求できるときに、重なる分の金額についてはなかったことにすることです。
銀行口座が凍結されるのは、相殺される預貯金を債務者に引き出されないようにするためなのです。
銀行は、預貯金を借金と相殺して借金を回収します。口座の預貯金が引き出されて少なくなると、回収できる借金も減ってしまいます。
ですから、債務者が借金返済できなくなったとわかると、銀行は口座を凍結するのです。
3.凍結される銀行口座の種類
凍結される銀行口座は、その銀行に対し借金があること・借金返済がされないだろうといえる事情があること、などの条件を満たしたものに限ります。
債務整理により、全ての銀行口座が凍結されるわけではないのです。これは、自己破産や個人再生など裁判所を利用する債務整理でも同じことです。
なお、数か月支払いが遅れているだけでも、口座凍結されるおそれがあることにはご注意ください。
凍結の目的はあくまで相殺により借金を回収することですから、銀行から借金をしていて、しかもその借金を返済できない事情がないと凍結はされません。
- 借金をしていない銀行の口座
- 借金をしているが、返済の遅れがなく、債務整理の対象にもなっていない銀行の口座
- 傘下のサラ金からは借金しているが、銀行自体からは借金をしていない場合のその銀行の口座
- 債務者の家族名義の口座
は凍結されません。
一方、支店口座はすべて凍結されます。借入先の銀行の複数の支店に口座がある場合、借金をした支店だけではなく、「他の支店」の口座も凍結されます。
4.口座凍結の開始と終了
(1) いつ口座は凍結される?
口座凍結をするかしないかは、銀行の自由であり、法律上決められた口座凍結の時期というものは存在しません。
ただし、口座凍結は借金の一部でも回収しようという銀行のリスクヘッジのために行われるものですから、債務者が債務整理を行うことを銀行が知ったならば、すぐに口座凍結処理を行ってくると考えるのが自然です。
銀行が、債務者が債務整理を行うことを知るのは、通常、債務者が弁護士に債務整理を依頼し、弁護士が銀行に受任通知を送った時点ですから、口座凍結のタイミングは、銀行が弁護士の受任通知を受領した時点と考えてよいでしょう。
(2) 口座凍結はいつまで続く?
解約されない限り、口座凍結は解除されてまた利用できるようになります。
ただし、すぐにとは限りません。銀行はお金を貸すときに保証会社に保証をさせています。保証会社から「代位弁済」があって初めて、口座凍結が解除されます。
「代位弁済」とは、借金を保証している人・会社が、返済できなくなった債務者に代わって残った借金を支払うことです。借金と預貯金を相殺してもたいていは借金が残ってしまいますから、銀行は保証会社から代位弁済を受けます。
代位弁済により、銀行は借金全額を回収します。これで銀行は損をするリスクが完全になくなりますから、口座凍結が解除されるのです。
口座凍結が解除されるまでの期間は、代位弁済にかかる時間が保証会社によって変わるため一概には言えませんが、目安として2~3か月と考えてください。
なお、銀行によっては口座凍結後、強制的に口座を解約するところもあります。銀行の運用次第としか言えません。
いずれにせよ、口座凍結の対策が債務整理による口座解約の対策にもつながります。
5.口座凍結の対策
口座凍結をされずに債務整理をする、または、口座凍結をされることを承知で債務整理する場合の対策は、以下の通りです。
(1) 口座のある銀行からの借金を債務整理しない
債務整理を行う場合であっても、債務整理の方法によっては、口座凍結が行われない場合もあります。
債務整理の方法は大きく分けて任意整理と個人再生、自己破産の3種類に分けられます。
任意整理を利用した場合、口座のある銀行を債務整理の対象から外すことで口座凍結をされずに債務整理できる可能性があるのです。
個人再生と自己破産は裁判所が関与する手続きとなるため、「債権者平等の原則」と言って、債権者をえこひいきすることはできません。よって、すべての債権者を対象とし、受任通知もすべての債権者に対して送付することになります。
ですから、自己破産や個人再生では、口座がある銀行を除外することはできず、口座凍結自体は逃れられません。
これに対して任意整理は、個人再生や自己破産と異なり、裁判所を通さずに私的に債権者と交渉していくという方法なので、一部の債権者のみを対象に任意整理を行うということも可能です。
したがって、預金口座がある銀行を任意整理の対象に選ばなければ、当然受任通知を銀行に送ることもないので、口座が凍結されることもありません。
もっとも、任意整理は自己破産や個人再生よりも返済額を減らしにくいデメリットがあります。
返済に充てられる金額が少なく、口座のある銀行からの借金も債務整理しなければ借金全てを返済できない場合には、任意整理で口座凍結を避けることは難しくなります。
(2) あらかじめ預金を引き出しておく
口座凍結が避けられないときは、銀行が口座を凍結する時点、基本的には弁護士が銀行に対して受任通知を発送する時点までに凍結への対策が必要です。
債務整理を行う銀行にお金を預けている場合、口座凍結が解除されるまでお金が引き出せなくなってしまいます。また、相殺により預貯金が失われてしまいます。
債務整理で返済すべき借金が減るか無くなる前に、元の金額を基準に相殺されてしまいますから、そのままでは損をしてしまいます。あらかじめお金を引き出しておきましょう。
ただし、自己破産や債務整理など裁判所を利用するため債権者平等の原則がある債務整理では、引き出したお金の使い道や管理に細心の注意を払わなければ、手続にトラブルが生じるおそれがあります。
借金全額を支払えないとわかったうえで特定の債権者だけえこひいきして返済することを「偏頗弁済」と言います。偏頗弁済は債権者平等の原則に反する違法行為です。
自己破産では手続の費用や手間などの負担が重くなります。個人再生では返済負担を本来よりも減らせなくなるおそれが生じます。
偏頗弁済の金額が大きく、偏頗弁済したことを裁判所に隠すなど不適切な行為も重なると、自己破産や個人再生が許されなくなってしまうことすらありえます。
いつどうやってお金を引き出せばよいか、引き出したお金をどうすればいいかは、弁護士のアドバイスに必ず従ってください。
(3) 給与振込口座の変更
凍結される口座が給与振込口座に指定されている場合、指定先を変更しないままだと、口座凍結により給与が引き出せなくなってしまいます。入金もできなくなっていると、勤務先に債務整理がバレてしまいます。
このような事態を避けるためにも、受任通知を発送する時点までに給与振込口座を変更することは非常に重要です。
もっともよいのは、受任通知送付前に給与振込先口座を借金がない他の銀行に変更してしまうことです。借金がない銀行の口座が凍結されることはありませんし、新しく口座を開設することも問題ありません。
特定の銀行でなければ給与振込先口座にできないというときには、今の振込先口座が凍結された後に、同じ銀行のほかの支店に新しい給与振込先口座を開設しましょう。
同じ銀行でも、支店が異なれば、新しく口座を開設できることがほとんどです。凍結前に他の支店に口座を作っても、銀行が同じであればすべての支店の口座が凍結されてしまうので意味がないことには注意してください。
振込先口座の変更に時間がかかるときは、弁護士に受任通知送付を待ってもらうか、勤務先から給与を現金で支給してもらいましょう。
なお、凍結が行われる口座に公的扶助や未回収の売掛金等、入金の予定がある場合も、受任通知送付までに入金先を別口座に変更してもらう必要があります。
(4) 公共料金等の引落口座の変更
口座が凍結されると引き落としもできなくなってしまいます。
ですから、凍結される口座を公共料金や家賃等の引落口座として使っている場合には、引落口座を別の銀行口座(債務のない銀行の口座)に変更するか、支払方法をコンビニ払いなどに変更しておきましょう。
なお、ブラックリストに登録されてしまいますから、クレジットカードなどは利用できないことにご注意ください。
6.まとめ
債務整理の方法によっては、銀行の口座凍結は避けられません。
口座凍結によるダメージを最小限に防ぐためにも、事前に専門家と相談する等して対策をとることは非常に重要です。
泉総合法律事務所では、債務整理に関する相談は何度でも無料で行っているので、どうぞお気軽に相談にいらしてください。
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