ソシャゲ課金による借金は個人再生で解決できる?
最近、若い方を中心に問題となっている借金の原因が、スマホのソーシャルゲームにおけるガチャやアイテムのための課金です。
何万円ものお金を投入してガチャを回し、欲しいキャラクターを手に入れようとしたら、気づいたら今月の給料が消えていたという方はいませんか?
高性能のアイテムを買っていくうちに、預貯金を食いつぶし、貸金業者や銀行のカードローンを利用するうちに借金が膨らんでしまった方もいるかも知れません。
そんな方は、もはや決して珍しくはありません。
借金を無くすにはまず自己破産が考えられます。しかし、自己破産手続をすると、重要な財産が処分されてしまう、または、特定の職業で働くことが手続中制限されてしまうというデメリットがあります。
また、1度目の自己破産が認められても、2度目の自己破産をしようとすると、破産が認められないリスクが高くなってしまいます。
個人再生手続は、借金の返済負担が残るものの、自己破産手続によるリスクやデメリットを回避しやすいという特長があります。
ここではソシャゲ課金で作った借金を個人再生手続で軽減することについて説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続の基本
個人再生手続は、支払不能の恐れのある債務者が、裁判所に申立てをして、借金の返済義務などの全ての金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)のうち、最低限支払わなければならない一部の金額について、原則3年(最長5年)で返済する再生計画案につき、履行可能であると認可してもらい、その計画に従った返済を終えれば、残る借金が免除される債務整理手続です。
(1)手続の種類
個人再生手続には、債権者による反対手続の有無や、利用条件および返済額の基準の厳しさが異なる二つの種類の手続があります。
債権者に反対されるリスクがあるものの、利用しやすく返済額を減らしやすい手続の種類が、小規模個人再生というものです。
逆に、利用条件のハードルが高く、返済額が膨らむリスクの大きいデメリットがある一方、債権者から反対されることが無い手続の種類は、給与所得者等再生と呼ばれています。
(2)再生計画上の返済総額を定める基準
再生計画上の返済総額を定めるに際しては、小規模個人再生では以下の①②の基準、給与所得者等再生では③の基準も加え、それぞれの基準に基づいて算出された金額のうち、最も大きい金額が採用されます。
①最低弁済額
法律が定めている基準で、債務者の借金の金額次第で変動します。
詳細は省きますが、借金総額の5分の1を目安にして下さい。
②清算価値
清算価値とは、仮に債務者が自己破産をした場合に、裁判所により処分され、債権者に配当されると見込まれる債務者の財産の価値相当額です。
③2年分の可処分所得(給与所得者等再生のみ)
債務者の収入から税金や政令で定められた生活費を引いたものの2年分です。最も高額となることが多い基準となります。
給与所得者等再生でのみ基準となるため、給与所得者等再生での返済額が膨らむ原因となります。
(3)個人再生委員
個人再生委員は、個人再生手続で裁判所を助ける役職の人です。
必ず選任される訳ではありませんが(もっとも、東京地方裁判所では必ず選任されます)、手続の内容を決定するうえで必要となる重要な情報について調査を行い、手続の重要な節目で裁判所へと意見を述べるため、手続の成否に大きな影響を及ぼします。
2.自己破産手続で免除する際のリスクとデメリット
自己破産手続によれば、原則として借金を全額免除してもらえます。そのため、経済的利益だけを考慮すれば、個人再生手続よりも有利です。
しかし、自己破産手続には、以下のリスクやデメリットがあります。
(1)借金がなくならないリスク
ソシャゲ課金は、一般的にはギャンブルや浪費による借金とされます。
ガチャを回すことは、ギャンブルと変わりませんし、アイテムの購入は、生活費と釣り合っていなければ浪費とされるでしょう。そして、自己破産手続では、ギャンブルや浪費による借金があることは、免責不許可事由という、原則として借金が免除されない事情にあたります。
免責とは、自己破産手続で借金が免除されることです。
もっとも、実務上、ギャンブルや浪費、ひいてはガチャやアイテム課金による借金だからと言って、借金が免除されないことは稀です。「裁量免責制度」という救済制度があるためです。
裁量免責とは、裁判所が債務者の一切の事情を総合判断して、免責を認めることを言います。
ただし、裁判所は、ソシャゲ課金が問題となりがちな若年層の自己破産には、比較的厳しい態度で挑みます。
特にソシャゲによる借金を一度自己破産で無くしたのに、ソシャゲ依存の沼から抜けられず、また借金をしてしまった場合には、裁量免責すらされない恐れが高くなります。
(2)財産が処分される
自己破産手続で一般に最も大きなデメリットとされるものが、財産の処分です。
目安として、99万円を超える部分の現金や20万円を超える財産は、債権者への配当のために処分されてしまいます。
たとえば、預貯金が25万円ある場合、20万円没収されて5万円手元に残るのではなく、25万円全額が没収されるのです。
また、住宅ローンの抵当権が付いているマイホームなど、借金の担保となっている財産は、債権者により処分されてしまいます。
(3)特定の職業で働けなくなる
警備員、保険外交員など、他人のお金を扱う資格や職業に就いている場合、手続中はその資格では働けません。
問題となる職業に就いている場合には、勤務先に休職や配置転換を依頼する必要があります。
それが難しいのであれば、自己破産手続は回避した方がよいでしょう。
3.ソシャゲ課金による借金を個人再生するメリット
(1)手続が利用できなくなることがない
個人再生手続には、免責不許可事由はありません。
そのため、ガチャやアイテム課金による借金、二度目の借金でも、個人再生手続で減額できます。
(2)裁判所により財産が処分されない
個人再生手続では、裁判所が債権者への配当のため、債務者の財産を処分してしまうことはありません。
自己破産手続での配当見込み額である清算価値以上の返済が、再生計画に基づいてされるためです。
(3)マイホームの維持
個人再生手続でも、担保とされている財産は債権者により処分されてしまうことが原則です。
しかし、個人再生手続では、住宅資金特別条項(「住宅ローン特則」とも呼ばれます。)を再生計画に盛り込むことで、マイホームだけは債権者により処分されないようにすることが出来ます。
(4)資格制限がない
個人再生手続には、自己破産手続のような資格制限は一切ありません。
勤務先に借金のことを打ち明けて協力を求める必要はないのです。
4.個人再生手続の注意点
個人再生手続一般の注意点には様々なものがありますが、全てをここでは紹介しません。
ここでは、ソシャゲ課金による借金について個人再生手続をする場合に生じやすい問題に焦点を合わせて説明をします。
(1)債権者に反対されるリスクが高くなる恐れ
ソシャゲの課金を、特定のクレジットカードで支払っている場合や、通信料と同様に携帯会社を利用して支払っている場合、ソシャゲの莫大な課金が、クレジットカード会社や携帯会社に対する借金になってしまいます。
小規模個人再生手続は、手続の基本で説明したとおり、便利ですが債権者に反対されるリスクがあります。具体的には、債権者の半分以上か、借金総額の半分を超える反対があると、手続が打ち切られてしまうのです。
そのため、債権者が少数の場合や、高額の債権を持つ債権者がいると、手続が打ち切られるリスクが高くなります。
このような事情や仕組みがあるため、ソシャゲの課金を小規模個人再生手続で減額しようとすると、課金代を請求しているクレジットカード会社や携帯会社が手続に反対するリスクは無視できないことが多いのです。
なお、給与所得者等再生では、債権者に反対されることはありません。
しかし、安定した収入が必要ですから、歩合給や自営業の方は利用できない恐れがあります。
また、可処分所得の2年分基準が返済額の基準に追加されますが、この基準は所得が高いことや独身であることにより高額となりがちです。
ソシャゲ課金にのめりこみやすい若年層の方にとっては、落とし穴になりかねません。
(2)スマホを解約される恐れ
ソシャゲの課金を携帯会社決済としている場合、携帯会社が、課金代金を減額されたことを理由に、スマホの通信契約を解約してしまいます。
通信料の滞納がある場合や、本体割賦払いの残金がある場合も解約されるリスクがあるのですが、金額はさほど大きくないため、家族に立て替え払いしてもらえば解決できます。
しかし、ソシャゲ課金代金はそうはいかないでしょう。従来利用していた携帯会社とは再契約は半永久的に困難となり、また、他の携帯会社も、5年程度は、スマホ契約を拒否してくる恐れがあります。
通信料を先払いするプリペイド携帯を利用するようにしましょう。
(3)履行テスト中のソシャゲの自粛
裁判所の中には、再生計画の履行可能性の判断のために、手続中、債務者に実際に再生計画上の予定返済額を支払わせる履行テストを行うところがあります。
履行テストの支払いが滞れば、当然、履行可能性が認められにくくなります。
ですから、少なくとも履行テスト中は、ソシャゲ課金は自粛しましょう。
課金して履行テストのためのお金を失ってしまったら目も当てられません。
履行テスト上の返済をしっかり継続していても、個人再生委員が選任された場合には、家計簿を提出させられたうえ、生活状況をチェックされることがありますから、課金をすることは避けたほうがよいでしょう。
5.ソシャゲ課金による借金整理は弁護士に相談を
ソシャゲ課金と債務整理は、しばしば新聞やニュースで話題になるようになってしまいました。
何事もほどほどにといきたいところですが、「ガチャは悪い文明」といわれるように、ギャンブルのような依存性、ファッションの浪費のような承認欲求への渇望に突き動かされ、止まらなくなってしまうこともあるでしょう。
自己破産に抵抗がある、マイホームを購入したばかりなのに……という方は、個人再生手続も検討してみてはいかがでしょうか。
泉総合法律事務所では、これまで多くの借金問題を個人再生手続で解決してきた豊富な実績がございます。皆様のご相談をお待ちしております。
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