自己破産の資格制限について
自己破産は、借金を帳消しにするという大きなメリットがある債務整理手続です。
しかし、一定の期間、自己破産をすることで就けなくなってしまう職業があるというデメリットもあります。
ここでは、自己破産により職業などに就けなくなる期間や制限されてしまう職業の具体例などについて説明します。
このコラムの目次
1.資格制限の期間
裁判所が自己破産手続の開始を決定すると、一部の資格が制限されてしまいます。
そのため、自己破産をしようとする人が就いている職業が、その資格を必要としている場合、その職業に就いて働くことが出来なくなってしまいます。
裁判所が手続開始決定をする時点は、各裁判所の運用によりますが、自己破産の申立てから早くて同日中、遅ければ1カ月ほど経った後になります。
自己破産は、生活を圧迫する借金を無くして、生活を立て直すための重要な手段ですが、職業制限のため収入の道が断たれることにならないよう、注意しなければなりません。
もっとも、最後に説明する通り、自己破産をすると一生その職業につけなくなるということはありません。
ほとんどの場合、裁判所が債務の帳消しを認める「免責許可決定」が確定したとき、申立から3~4か月ほど経ったころに制限はなくなります。
それでは、どのような資格などが制限されてしまうのか、その資格を使って働いている場合にはどうやって借金を整理すればよいのかを見ていきましょう。
2.制限される職業の具体例
自己破産をするということは、支払えないほどの借金を背負ってしまったということですから、お金に非常に困っている場合が多いでしょう。
したがって、他人の財産に関わる資格かどうかが、自己破産により制限される資格かどうかの分かれ目となります。
制限される資格は数多くありますが、特に問題となりやすいものをまず一覧で示します。
- 卸売業
- 貸金業
- 質屋
- 生命保険募集人
- 警備員
- 建築士事務所開設者
- 建設業
- 不動産鑑定士
- 土地家屋調査士
- 宅地建物取引士
- 中小企業診断士
- 廃棄物処理業者
- 旅行業務取扱管理者
金融や保険、警備、不動産や旅行など、大金が動く業界の資格が問題となりがちです。
ほかにも、弁護士・司法書士・行政書士などのいわゆる「士業」も、債務整理などで依頼者の預金通帳を預かるなど、他人の財産に関わることが多いため、資格制限の対象になっています。
仕事が資格制限の対象でなくとも、判断能力が低下した人の財産を管理する役職、たとえば、後見人・保佐人・補助人になることはできません。
なお、公務員は基本的に資格制限の対象となりませんが、共済組合からの貸付があれば、自己破産手続をしていることが職場に知られてしまうことにはご注意ください。
3.職業が制限されてしまう場合の対策
このように自己破産により制限を受ける職業に就いている場合、少なくともその資格を利用して働くことはできませんし、最悪、解雇されてしまう恐れがあります。
では、自己破産により制限されてしまう職業に就いている場合、解雇などのリスクを回避するためにはどうすればよいのでしょうか。
(1) 自己破産以外の債務整理
資格制限は自己破産だけのデメリットです。裁判所を利用せずに債権者と交渉する「任意整理」、裁判所を利用するものの、借金の一部を返済する「個人再生」などでは、資格の制限はありません。
しかし、自己破産と異なり、ある程度お金を支払い続ける必要があります。
(2) 配置換えや休職
会社に事情を話して相談しましょう。
資格を用いない業務を担当している部署へと配置換えしてもらえば、資格制限中でも働き続けることができます。
もしくは、休職扱いとしてもらったりすることでも、資格制限が解除された後に、解雇されずに元の資格を使って再び働くことができます。
4.資格制限の解除
ほとんどの場合は、裁判所が自己破産を認めてしばらくすれば、資格制限は解除されます。
裁判所が自己破産を認めなかった場合であっても、資格を解除することはできます。
(1) 自己破産成功で「復権」する
裁判所が自己破産を認めると判断した「免責許可決定」が確定すると、自己破産開始決定による資格の制限は解除されます。
免責許可決定が確定する時期は、その決定から約1か月後。
つまり、ほとんどの場合、自己破産の申立から、約3か月から4か月後には、制限は解除されることになります。
(2) 免責不許可となってしまった場合
自己破産を申し立てれば必ず免責許可決定がされるわけではありません。「免責不許可事由」と呼ばれる自己破産を認めるには不適切な事情があると、免責されない可能性が生じます。
その場合でも、たいていは、あらゆる事情を総合判断して免責を認める「裁量免責制度」により免責許可決定がされるのですが、
- 「財産隠し」など悪質すぎる免責不許可事由がある場合
- 裁判所にウソをつくなど、手続に協力をしない場合
- その他、反省の色が全く見られない場合
には、免責許可決定がされないことがあります。
免責許可決定がされないわけですから、以下に説明するようなほかの手段で資格制限を解除することになります。
①借金返済の上、裁判所に解除申し立て
一応、法律で定められている手段ですが、宝くじにでもあたらない限り、自己破産をしようとした人が自力で借金を返済することはまず困難でしょう。
②個人再生
これが一番現実的です。
個人再生手続は免責不許可事由があっても手続の利用が認められています。
ただし、借金や資産の額により決められた、最低限支払わなければならないお金を原則3年(最長5年)、分割払いする必要があります。
その分割払いの計画を裁判所が実行可能と認めてくれれば、資格制限は解除されます。
③開始決定後10年が経過
裁判所が個人再生を認めてくれない場合は、永久に資格は制限されたままかというと、そうではありません。
自己破産手続の開始決定から10年が経過すれば、何もせずに資格制限は解除されます。
ただし、財産隠しなどの自己破産に関する犯罪で有罪判決を受けた場合は解除されません。
5.自己破産に関する問題は泉総合法律事務所八千代勝田台支店へ
自己破産をした場合に、必ず会社にばれる、解雇されてしまうということはありません。
しかし、ここで説明した資格を使った職業に就いている皆さんは、自己破産での債務整理を検討する場合には注意しなければなりません。
黙っていれば大丈夫と思っていても、官報によりばれてしまう恐れがありますし、黙っていたことがかえって会社にとって悪印象になってしまいます。
会社に相談して事前に対策を練るとしても、業界や職種、会社の規模により、会社の協力を得られるかどうかは異なってきます。
また、個人再生などほかの債務整理にすべきかどうかの判断も必要です。
泉総合法律事務所八千代勝田台支店では、自己破産を含め、債務整理の経験豊富な弁護士が多数在籍しております。
自己破産による資格制限の対象となってしまう方で、債務整理をご検討されていらっしゃいましたら、是非泉総合法律事務所にご相談下さい。
-
2019年8月14日債務整理 債務整理による銀行口座の凍結
-
2018年7月24日債務整理 個人再生の手続の対象となる借金とは何か?
-
2019年9月9日債務整理 スマホのキャリア決済を現金化してしまったときに自己破産するには